Share

田坂広志さんの著書

田坂広志という方をご存じでしょうか。
シンクタンク・ソフィアバンク代表で大学教授、そして多くのビジネス本を著されてます。
『仕事の技法』『人間を磨く』『「暗黙知」の経営』…など、いかにもビジネス本らしいタイトルのものばかり。しかし、田坂さんの本はいわゆるノウハウばかりを集めたビジネス本とは明らかに一線を画しています。

人間愛にあふれたビジネス本

田坂さんの本は、厳しく、美しくて、愛のある文体がなんとも言えない個性を醸し出しています。
ビジネスの現場で必死に格闘してきた体験がベースになっていて、とにかく真摯で真面目。上司や部下、ビジネス相手としっかり正面から向き合い、人間としての成長することを説いており、表面上のテクニックでビジネスに対応することを否定しています。
「仕事のノウハウや知識をちょこっと仕入れようかな」なんて考えで読み始めるとエライ目にあうわけです。

しかし、常に人間愛にあふれた厳しいスタンスに接し感銘を受け、ページをめくる手が止まらなくなります。読むたびに自分の甘さを痛感し、電車の中などで読んでいたとしてもついつい姿勢を正してしまう。恩師に教えを受けているような…、忘れていたひたむきさを思い出させるような…、そんな内容なのです。

田坂さんが嫌いな「操作主義」

そんな田坂さんの複数の著作ででてくるのが「操作主義」に対する批判です。「操作主義」とは、相手を心理的に操作して自分の思う通りに事を運ぼうとすること。
『仕事の技法』で、例としてあげられているのが、あるデザイン案のプレゼンでの出来事。

あるデザイン会社が出来栄えのいいA案を一発で通すために、見劣りのするB案、C案を提出。
対抗馬となりそうな別案があったにもかかわらず検討の時間を長引かせるだけなので提出しなかったのです。

この例を読んでいる時はドキッとしました。
ぼく自身こういった技巧(きちんと説明するためのテクニックは別として)は好きではなく、いい案を提出して、いい検討をしていただけるように提案しているつもりです。しかし、デザインを仕事にしている以上は程度の差こそあれ「人の印象を操作しよう」とすることは避けられないのではないでしょうか。

そもそも、企画やアイデアをねっている時は、顧客に対して「○○なイメージを与えよう」なんて絶対考えています。
世の中には、こんな見え透いた操作主義にまみれた広告物や商品にあふれていますが、田坂さん的な厳しい基準で広告・販促やデザインを考えることが、本当にいい仕事をすることにつながるのでは?と考えさせられました。

操作することを誇るような、表面上の企画・デザインではなく、本当にいい商品、本当に伝えたいことを正面から訴えかけるような、そんなデザインが求められているように思えます。

簡単な道はない…?

田坂さんは、誤魔化しの「操作主義」は一流のプロフェッショナルには必ず見抜かれる、といいます。
また、多くのビジネス書では「こうすれば、部下はうまく動く」のような人間観の貧困な内容が書かれていますが、田坂さんはこういった部下を操作するかのような考えにも批判的な目を向けます。人間は道具ではない、機械でもない。人は誰でも「操られたい」とは思っていない。

田坂さんの本は『仕事の技法』なんてタイトルの癖に(読む人は、仕事力をアップさせようとこの本を開くわけです…)、書物なんかで表面上のテクニックを手に入れるのではなく、とにかく正面から物事に向き合って、格闘して、覚悟をもって決断していくことが必要だ、なんて厳しいことことが説かれているわけですから読者はびっくりです。インパクトをうけます。


田坂さんの本は、疲れている時には、あまり読まないほうがいいのかもしれませんが、「最近、ちょっとぬるま湯だな〜」なんて思ったら開いてるといい本かもしれません。

Share