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まっぷたつの子爵

若者には読まれていない(であろう)「岩波文庫」のラインナップから、おすすめ作品をピックアップしていきます!第二弾。

今回はイタリア文学。

『まっぷたつの子爵』カルヴィーノ

〈176ページ 読みやすさ度★★★★★〉

ある子爵が、戦争で体が左右まっぷたつに裂かれ、右半身・左半身、各々極端な「悪」「善」な存在となって故郷に帰るというお話し。

もう、この設定を聞いただけで面白そう。この紹介文をメディアで読んだだけで欲しくなり、書店に走りました。
人間の世の中では「良いこと」「悪いこと」とされることが、なんとなく定義されていて、それを道徳的に押し付けられ「悪いこと」をすると世間から徹底的に糾弾される。しかし、善悪なんて人間の都合でつくり出されたもので、はっきり分けられるようなものではないように思えます。
それがこの物語では善悪の二元論で語られるわけです。分けられないはずのものが、完全にまっぷたつになってしまうとどうなるのか?そんな面白さがこの作品にはあります。

悪い半身“悪半”は民が恐怖に怯えるくらい残虐な存在となるのですが、良い半身“善半”だって極端に良い存在なだけに疎まれたりするのが面白い。

このまっぷたつになった子爵の甥である“ぼく”の視点で物語が進行して行くのですが、その“ぼく”によって語られるラストの一文がさりげなくおしゃれ。

読みやすい長さと文体で、哲学的な深読みもできる。そんな一冊です。


余談ですが、カバー挿絵が宮城谷作品の挿絵でおなじみの版画家・原田維夫さんなのを発見して嬉しくなりました!

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