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大英博物館プレゼンツ 北斎

ドキュメンタリー映画『大英博物館プレゼンツ 北斎』

「浮世絵には明るくないし、ちょっと勉強のつもりで見に行こうかな」くらいの気持ちで鑑賞したのですが、これがなんとも感動させられるいい映画だったのです。

まるで子供のような北斎研究者

この映画を観始める前は、美術系のドキュメンタリーにありがちな、高精細なカメラで撮影した映像を大画面で楽しむだけの映画だと思ってました。まあ、それでも北斎のことを勉強できて、作品をゆっくり鑑賞できればいいか、くらいのつもりだったのですが、その予想はいい意味で完全に覆されました。

この映画の中で、キュレーターや芸術家など何名かの北斎マニアがインタビューをうけて北斎の素晴らしさについて語っているのですが、みんなの北斎への愛がこちらまでビシビシ伝わってくるのです。

特に北斎研究者のロジャー・キースに感動させられます。

もうけっこうなお年だろうに北斎のこととなるとまるで子供のように熱く語る。特に、病気や破産など苦境に立ちながらも芸術家として高みを目指し続けた北斎の生き方と作品を重ね合わせて熱く語るシーンは、頬を赤らめ目は潤んで涙を流さんばかり。驚くほど純粋な北斎ラブぶりを見せてくれるのです。

この映画を観る側は、

「いや、北斎も凄いけど、そこまで熱くなるあんたも凄いよロジャー…」

と、言いたくなってしまうんですよ。

道を極めるような人はやっぱりクレイジーなのか…

北斎は、絵を書き始めた6歳から亡くなる90歳まで一日たりとも筆を持たない日はなかったという。
晩年は「画狂老人卍」と名乗っていた(ちょっと笑ってしまう…)とのことですが、絵に対してまさしくクレイジー。少しでも長生きして絵の経験を積んでいくことで絵を極め、110歳になるときには描いた点や線に生命が宿るところまで達したいと望んでいたらしい。

平均寿命が50歳に満たないような時代に、そこまで考えていたなんて驚くばかり。もっともロジャー・キースに言わせると、北斎自身が龍になって天に登る生涯最後の作品「富士越龍図」はその域に達しているとのこと。
絵にすべてを捧げた人生で、その最後の作品に生命を宿らせながらこの世を去って行くとは、いささか“出来すぎ”だなと思いながらも、ここまでクレイジーだと、なんか納得感もある話しでした。


そんなに期待はしてなかったドキュメンタリー映画が、こんな感動作になっちゃっているのは間違いなくロジャー・キースのせい。ドキュメンタリー作品ではありますが助演男優賞を差し上げたい気持ちです。

もちろん、この映画は数々の北斎の代表作もしっかり取り上げています。イギリスの専門家が『神奈川沖浪裏』の凄さを語ったり、北斎自身の意図が反映されたオリジナルの『赤富士』の姿がわかったりとか、北斎ファンにも見ごたえも充分の映画でした。

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